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このタイトルで書こうと思った理由には,東日本大震災後の電力事情があります。
電力不足が問題になり,各電力会社管内での電気の融通が利かないことが浮き彫りになり,
その弊害になったのが,電力会社同士の協力(連系)体制,電力会社間の送電設備の脆弱さ,融通の壁になった周波数等でした。
特にクローズアップされたのが周波数です。
タイトルの商用電源周波数とは,実際に僕達がコンセントから得られる電源の周波数で,50Hzと60Hzがあります。
しかし,商用電源周波数を統一するだけで,各管内間の電気の融通が簡単にできるようになるのでしょうか。

この商用電源周波数の統一を,送電技術と言う面をからめて考えてみたいと思います。

まずは有識者と言われる人たちの中には,
統一周波数にするのには,何ら問題はないような意見を発信している人もいます。
電気の基礎知識を持った人が聞けば「???」なのですが・・・。

前置きしますが,統一周波数にするための弊害を上げ連ねて,だからできないんだよ。
と言いたいわけでじゃありません。
誰もが周波数は統一されるべきだと考えていると思います。

そして,技術と言うものは,与えられた環境の中でも,独自に進化していくものであるという事。
上辺だけで,判断するのは間違いだという事。
進化する故に,現在スタンダードだと思われる技術以前の物,それ以上に進化した物が共存する社会だという事。
それらを考慮に入れられない人は,情報を発信すること自体誤りだと思うのです。

一部の有識者が発信してる内容を抜粋してみました。
①東西の周波数をこの際統一してしまえばいい。例えば60Hzにしてもほとんどの人は困らない。
 50Hzより60Hzのほうが効率がいいので,60Hzに変えるというのは理解できます。
②大阪から東京に引っ越すのに電気製品を買い替える必要は全くありません。
 家電のそれぞれにはインバーターが入っているからです。

③変電所ごとに重要な顧客をチェックしながら60Hzに切り替えていけばいい。

殆んど需要者側の切り口で発信されてるのでしょうね。ま,それはさておいて。

これらが,本当に実証された中で発信されているのか検証しようと思います。

①東西の周波数をこの際統一してしまえばいい。例えば60Hzにしてもほとんどの人は困らない。
この「ほとんど」というあやふやな言い回しは,どこかの国の長が「近いうちに」と言ったのと同じなのかどうかは考えないことにして・・・発信した人が技術畑出身なので・・・ほとんどは限りなく100%に近いと判断することにします。
一番問題だと思っている,照明器具の蛍光灯に関して考えてみましょう。
蛍光灯の種類は,大別して2種類あります。
電子式安定器のタイプと,磁気式安定器のタイプです。
そして,現在日本全国での電子式安定器の普及率は50%と言われています(東芝ライテック調べ)。
結論から言うと,電子式安定器は50Hz,60Hz共用ですが(周波数を変える機能があるのでインバーターの一種です),
磁気式安定器は50Hz,60Hz専用です。
つまり商用電源に接続して,磁気式安定器式の照明器具を点灯してる人にとっては,大いに影響があるわけです。
まさか60Hz管内だけに磁気式安定器式の照明器具を使ってる人が集中してる?
そんなことは,あり得ないです。

50Hz使用の磁気式安定器に60Hzの電源を供給したらどうなるかというと,日本電球工業会(JELMA)によれば,
q & a蛍光灯_01
補足:50Hzの蛍光灯器具を60Hzの地域で使うと,焼損の危険があります。
逆の場合は若干暗くなる,ちらつく等の障害が出ます。

どうやって磁気式安定器式と電子式安定器を見分けるの?

事務所などで広く一般的に使われている蛍光灯に直管形の蛍光管を使った ”40W1灯用-2灯用” ”100W1灯用-2灯用”があります。
まずはこのタイプについて説明します。
下から眺めてみると,点灯管がついてるタイプとそうでないタイプがあります。
点灯管がついてるタイプは,磁気式安定器と考えて間違いありません。
しかし,点灯管がついていないタイプは,磁気式安定器タイプで高力率形と電子式安定器タイプがあるので,一見しただけでは判別しにくいです。
年式や形式,カバーをあけてしまえば判別はできますが。
20Wや10Wの蛍光灯には高力率型は無いので,点灯管だけで判別できます。点灯管があれば,磁気式安定器だし。
なければ電子式安定器です。
一般家庭では,この高力率型はあまり使われていないので,点灯管の有無で判別できます。
これも,点灯管があれば,磁気式安定器だし。
なければ電子式安定器です。
照明器具の下からのぞいてみてください。

電子式安定器発売当初は,磁気安定器に比較して高価でした。現在もやはり少し高めですが,
電子式安定器は,磁気式安定器に比べ,省エネ軽量などの点から,
新築する建物のほとんどは,電子式安定器の照明器具になって行くでしょうし,磁気式安定器も安定器の寿命とともに電子式安定器に交換したり,照明器具そのものも交換することになり,普及率は増大するのは間違いないと思います。
ここ10年ぐらいの間に新築された建物であれば,電子式安定器の照明器具を設置している可能性が大でありますが,それ以前の建物では,磁気式安定器の蛍光灯が圧倒的に多いはずです。

②大阪から東京に引っ越すのに電気製品を買い替える必要は全くありません。
家電のそれぞれにはインバーターが入っているからです。
現在の家電製品のほとんどには,インバーターが内蔵されているのは事実です。
殆んどの使われている家電製品は50Hz/60Hz共用です。
そうじゃない製品を探すのが難しいぐらいです。しかし,”全く買い替える必要がない”と言いきれるほど現在使われてる家電製品に精通しているわけではないので,断言できません。
未だ存在するのかわかりませんが,周波数フリーでない電子レンジは,50Hz用を60Hzで使用すると毎秒100回放射されるマイクロ波が120回に増えるため焦げたりします。逆に60Hz用を50Hzで使用すると内部機器が過熱焼損する危険があります。

③変電所ごとに重要な顧客をチェックしながら60Hzに切り替えていけばいい。
スイッチ一つで50Hzから60Hzへ切り替えが可能な言い回しは誤解を招く素だと思うのです。
同 じ管内に・・・東電と東北電力等,北海道電力は同じ50Hzですが,北海道と東北間は直流送電であるため絶縁されています(電気的にはつながっていな い)。同一50Hz管内と言う認識から外して考えます。・・・50Hzと60Hzは存在しえないのです。と言うより不可能なのです。
と言う事は,絶縁されていないブロックは,すべて発電所から発電される周波数を60Hzに,それも一斉に変える必要があるわけです。当然すべての電力設備を60Hz仕様に変更しなければいけないわけです・・・発電,送電,変電,等の設備の大幅な変更が必要なことは言ううまでもないことです(ク リックして周波数統一のための予算が見れます)実際に積み上げて計算したわけではないので何とも言えませんが,正直もっと予算が必要だと思ってまし た・・・当然発電所側(上流側)から60Hzに切り替えていくわけですから,需要家側が60Hzの準備ができていなければ,60Hzから50Hzへ周波数 変換する設備が必要になります。そして,50Hzから60Hzに切り替える作業には,周波数の混在はあり得ないのですから,広範囲な停電作業が必要になり ます。より需要家に近い配電用変電所ごとに,あるいは大規模需要家ごとの中間変電所ごとに,また新たに変電所が必要になるケースもあるかもしれませんが, 電気的に絶縁し,ブロックごとに切り替えていく必要があるのです。それは限られた需要家だけの停電で済ませられるようにするためです。とはいっても,配電 用変電所一か所止めるだけで,数万所帯停電する場合があるわけですから。停電対策が必要になるでしょう。
発電所単位でかつ需要者までの範囲をどこまで電気的に絶縁できるブロックを作れるかが鍵になると思います。

一般需要家,一般需要家以外でも
交流(AC)電源接続のモーターを制御に使ってる設備や家電製品では,設備の変更が必要になります。
例えば4極のモーターですと
50Hzで1500回転/1分間
60Hzで1800回転/1分間
の違いが出てきます。
交流電源に接続するだけで簡単に運転できるため,自動機器などで幅広く使われています。
このようなモータの普及率に関して把握することは困難であります。


ここまでのところでまとめてみると,
あくまで,需要者側からだけ見てですが。
周波数を60Hzに統一するとして,例えば東日本全体の照明器具のおそらく半分が使えなくなる可能性があるわけです。そのまま使った場合,火災の危険性さえあるという事です。
そのほかにはACモーターで精密な制御をしている装置全ての見直しが必要ですし,自家用工作物(高圧受電設備)なども交換が必要になります。交流受電している設備内の変圧器すべてです。


有識者と言われる人たちは,何を根拠にほとんどの人が困らないと発信したのでしょう?


需要者側,供給者側の体制が仮に整ったとしても,大きな問題があります。
広範囲な停電が必要だという事。
もう一つ大きな問題なのは,社会が作り上げてきた電気事業者の体質にあると思うのです。


これらを乗り越えられない限りは,この問題は解決しないと思っています。

そのためにも電力の自由化は必要最低条件だと思うわけです。
しかし,現状の商用周波数の在り方で自由化すれば,50Hzは50Hz,60Hzは60Hz管内で,また独自に技術が進化してしまうので,難しい問題だと思います。
商用電源周波数を近い将来統一できるか?というと前述したとおり相当な困難が予想されます。


こういう考え方もできると思います。
ここで,何故商用電源周波数が問題になったかを遡って考えてみることにしましょう。
この商用電源周波数の問題は,各電気事業者間の電気の融通がうまくいかないところから浮き彫りになってきたことを考えれば,現状の商用電源周波数のままで融通ができる様なシステムを構築すれば,解決するのではないか?
そういう風に考えることもできないでしょうか。
西日本の同じ60Hz管内で,去年電力融通がうまく行われてきたのでしょうか。
商用周波数の違いが,電力融通のネックになっていただけではなく,各電気事業者間の意識と国のエネルギー政策(監視する国民も含めた)に全体を見渡す力がなかったためではないでしょうか。
そこのところを解決しない限り,各管内での電力融通のパイプ(送電量)は太くならないような気がしてならないのです。
当然,周波数の変換に必要な送電・変電設備は必要になり,それにかかる費用は膨大なものになるでしょう。
しかし,この考え方だと,需要者側の設備の変更は伴わないという利点があります。
当然供給者側の設備の変更はなく,各管内間の連携のための送電・変電設備および周波数の変換設備の増設だけになります。
周波数統一にかかる費用と,この送電量を増やす設備にかかる費用に,どのぐらいの差があるのかわかりませんけれど。明らかに現状で系統連系を考えていく方がリスクは少ないと言えると思います。

もう少し掘り下げて,考えてみましょう。
周波数統一と言う考え方が,本来一番理にかなってる考え方だとは思います。
しかし,周波数を統一したから管内間の系統連系が簡単に行なえる様になるわけではありません。
周波数を統一しても,やはり各管内間の送電・変電設備の増設なしには系統連系は考えられないのです。
そして系統連系のためには,ただ電線を延ばせばいいというわけではありません。
次の地図は震災前の各管内の系統連系を表したものです。
スライド1

地図の左上の凡例を見てください。
系統連系には,直流送電とと交流送電があります。
まず中央付近の50Hzと60Hzの間に挟まれるようにある周波数変換所が直流送電になっています。
これは周波数変換する時,一度直流に変換してから,再度変換される周波数を作っているからです。
次に北海道と東北管内の送電系統が直流になっています。 
条件が厳しい海底への敷設ということや、効率良い送電という事から送電ロスの少ない直流が選択された理由によるものです。
60Hz管内においても2箇所直流送電の施設があります。
これは上記の直流送電とは意味合いが違います。
ま ずは中部と北陸の間の南福光連系所ですが,もともと中部と北陸は関西を経由して接続されていました。さらに電力系統の品質の向上のために中部と北陸の連系 が考えられたのですが,中部と北陸の直接接続はループ(環状)接続になります。交流回路の場合ループ(環状)接続は,同期がずれる危険性があり,同期がず れた場合制御がこんなになるため,電気的に絶縁された直流送電になっています。とくのこの連系所はbtb(バック・トゥ・バック:近接配置)といわれ,直流線路は電線の長さが極力短く作られています(静止インバータと整流器の両方が同じ場所、通例同じ建物内に配置されている変電所)。
そして,阿南紀北直流幹線も,この接続を交流接続してしまうと,関西と中国と四国とでループ(環状)接続が構成されてしまうために,直流送電が用いられています。
系統連系には,お互いの不足分を供給しあえる長所もありますが,一つの管内のトラブルが他の管内に波及し全系統が崩壊する危険をはらんでいるという欠点もあります。この全系統崩壊は,複雑なプロセスを踏みながら数秒から数分以内に起きます。電気は生ものの所以です。
防止する手立ては,様々なケースを想定した事前のシュミレーションより予防方策を検討する方法しかないのです。
2006年11月にヨーロッパ8カ国を巻き込んだ停電は、人為的な判断ミスが原因だった。とされていますが,波及事故のいい例だと思います。
電気の安定供給を考えるとき,この系統連系は裂けては通れない問題であることは,言うまでもないことです。

生ものである電気を扱う為には,より高い技術力と熟練した技術者の養成が必要なのは言うまでもないことなのですが。
今後の電気の安定供給を目指すうえではこの大規模送電による系統連系を目指すか。
地域単位でのエネルギーお越しを進め,地域単位での自給自足を目指すか。
複合した形でのエネルギーへシフトしていくのが,リスクを減らす最も有効な方法だと今現在考えています。

話を周波数統一の話にもどします。
周波数を60Hzに統一すると,50Hz管内の系統連系設備(電気をやり取りする設備)は,すべて60Hz仕様に変更する必要もあります。

簡単に判断できる問題ではないと言う事がわかっていただけたでしょうか。
電気に関して特にそうですが,たぶん,おそらく大丈夫だからは通用しません。
100%が要求されます。100%の確実性を求めていかないと大事故につながります。

まず最初になすべきことは,我々使用者側の意識改革であるという事だと思います。
それが供給者側の体質そのものを,変えることにつながっていくのだろうと考えています。